グループCEO メッセージ

近鉄グループの改革を進め、「共創による豊かな社会」の実現に貢献していきます。

近鉄グループホールディングス株式会社代表取締役会長 グループCEO  
小林 哲也

コロナ禍で進める近鉄グループの改革

 私は、事業を通じて地域の発展と幸福に寄与することこそが当社グループの果たすべき役割と位置づけて経営に取り組んでまいりました。そのために、都心のターミナル、住宅地、観光地という3つの異なる拠点を整え、拠点間を列車で結ぶことで、豊かな日常と楽しい非日常を提供することを目指してきました。
 しかしながら、少子高齢化・人口減少の加速、地方の疲弊や過疎化の進行など、日本社会の構造的な問題がより鮮明となったことから、近年、当社グループは、沿線深耕に力を注いでいます。鉄道では「しまかぜ」「青の交響曲」「ひのとり」といった新しい特急を導入して、移動を楽しみとする旅の提案へと戦略を転換、まちづくりでは高さ日本一、300mの超高層複合ビル「あべのハルカス」を整備いたしました。グループによる相乗効果の活用と地域の皆さまとの連携によって、沿線の活性化に尽力できたと考えています。
 今、100年に一度の国難と言えるコロナ禍にあります。生き方、働き方、くらし方が大きく変わる転機となり、価値観の変化をもたらす急速な波が来たと考えています。
 これまで、当社グループでは自然災害を大きなリスク要因と捉え、前例にとらわれることなく災害対策の強化を進めてきました。その中で、私たちの事業がいわゆるB2Cに偏っていたことから、この度のコロナ禍により各事業が軒並み大きなダメージを受けました。あらためて、将来起こる可能性のあるリスクを想定し、これに前向きに対応していく必要性を強く認識しました。
 コロナ禍を経て世の中は変わります。デジタル化の進展が人の移動に頼らない社会を実現しようとしています。今、起きている劇的な環境の変化を、私たち自身も変わっていく好機と捉えて事業構造改革に邁進していきます。

近鉄グループの未来の姿

 当社グループの未来の姿について、まず、鉄道事業の方向性を述べます。戦後すぐの昭和22年以来築き上げてきた「近鉄特急ネットワーク」は大きな財産です。これを活かし、特急サービスの付加価値を一層高めるとともに他のサービスとのシームレス化を推進し、上質で楽しく安心な旅を提案してまいります。モータリゼーション社会の中であらためて鉄道事業の活力を高めるとともに、脱炭素社会の実現に貢献します。
 そして、移動の楽しみの提案と、沿線の自然や歴史的・文化的な資源の活用により観光振興を図ります。皆さまとともに観光の魅力構築に取り組み、訪れる価値がある地域を目指してまいります。
 まちづくりでは、デジタル技術の進展が居住地を自在に選べる社会を実現しようとしています。当社グループは数多の住宅や施設、公共交通を持っている強みを活かし、地域の皆さまとともに、コンパクトで快適な、住みたくなるまちをつくっていきます。
 続いて、事業構造について述べます。沿線にお住まいの方が主たるお客さまであることは今後も変わりませんが、鉄道、不動産、流通など各事業で、これまで進めてきたB2Cにとどまらず、B2Bにも積極的に取り組む必要があると考えています。例えば、不動産事業では、沿線に加えて首都圏や中核都市で、関与するアセットを拡大し、ビジネスに広がりをもたせます。また、すでにB2B事業を行っているグループ企業を強化するとともに、M&Aを積極的に進め、事業の多様性を確保していきます。さらに、デジタル技術を活用した既存事業の改革と、デジタル社会基盤の構築に取り組みます。
 次に、事業エリアの拡大にも取り組みます。IRが夢洲に開業する機会を捉えて、当社沿線への直通列車を計画し、IR効果を沿線に引き込みます。さらに、当社グループの拠点である、大阪・上本町のハブ機能を強化します。上本町は当社の主要なターミナル駅であり、百貨店やホテル、劇場などが集積していますが、大阪の東の拠点として、バスターミナルなど集客機能を強化するとともに、IRのお客さまを各地にお送りする、交通と観光情報の発出点に再整備します。
 一方、リニア中央新幹線の名古屋開業により増加する首都圏からのお客さまに対しては、伊勢志摩などの当社沿線にお越しいただく仕掛けづくりをしていきます。さらに、名古屋地区の再開発を契機に、中部国際空港を含む愛知・岐阜県下一円とのつながりを強化し、中京圏における事業拡大につなげます。関西国際空港から高速船で夢洲IRへ、奈良や伊勢を観光して名古屋から中部国際空港へという、インバウンド向けの回遊ルートの整備も可能と思っています。
 そして、海外に対しても事業を広げたいと考えています。当社沿線へのインバウンド需要の発地開拓にとどまらず、グループの国際物流、旅行、ホテル事業等で築いた拠点や販路を活用することにより、積極的に海外ビジネスに機会を見つけてまいります。

豊かな社会を次代に引き継ぐために

 戦後の日本では、経済成長と豊かさを追求・実現してきた代償として、東京一極集中、地方の疲弊や過疎化の進行という構造的な問題が生じました。その過程で、地域コミュニティの中で「助け合って生きていく」という伝統的な日本の長所まで薄れてしまったと感じています。利便性や物質的な豊かさを求めるあまり、何事も「個別化」が進行して社会の分断が進み、コロナ禍でその事実が一層際立ったと思っています。
 豊かな社会を次代に引き継いでいくためには、あらためて地域コミュニティの役割を高める必要があります。支え合い、高め合うことが「物心ともに豊かで持続的に発展する社会」につながると考えます。
 私たちは、皆さまの生活に直接かかわるハード、ソフトの経営資源を有する企業グループとして、地域コミュニティ再生に寄与します。これまで育てていただいた沿線地域を、皆さまとともに元気にし、「共創による豊かな社会」を次代に引き継ぐことに貢献してまいります。
 また、B2Bへの積極的な取組み、海外および国内での事業エリアの拡大など、新たな戦略を進めることによって、強靭性、成長性を高めていきます。沿線で培ってきた力を原点に、新しい時代において、さらに幅広く社会に貢献する企業グループとしていきます。
 そして、沿線の皆さま、社員、株主の方々など、ステークホルダーに対する責任ある企業として、持続的な発展を続けてまいります。


2021年11月

TOPに戻る