漆工芸は、漆の樹液を精製して器物に塗り、装飾を施すものです。漆の樹は主にアジアで育つため、漆工芸はアジア独特の工芸として知られています。日本でも古くから漆工芸が発展し、祭器から日常品まで多くの作品が生み出されました。
漆は、他の塗料にはない艶やかな輝きが大きな魅力ですが、貝や金属の薄片を模様の形に切って貼る螺鈿や金貝など、様々な装飾が工夫されました。特に日本では、漆の上に金や銀の粉を蒔いて模様をあらわす蒔絵の技法が発展します。
工芸品には作者の署名がないことが多く、漆工芸に携わる人々もそのほとんどが、歴史に名を残していません。しかし、経済活動が盛んになる江戸時代に入ると、代表的な蒔絵師の名前が知られるようになります。その一人が江戸時代後期に活躍した原羊遊斎です。羊遊斎の大きな特色は、伝統的な作品に学ぶとともに、同時代の人気絵師であった酒井抱一の下絵を積極的に用い、流行に応える繊細華麗な作品の数々を生み出した点にあります。本展観では、館蔵品より奈良時代から江戸時代にいたるまでの漆工芸の多彩な展開を紹介するとともに、特別出陳の原羊遊斎作品よりその洗練された世界をお楽しみいただきます。
【日本漆工の展開】 | ||||
瑇瑁貼螺鈿花鳥文八角筥 | 奈良時代 | |||
重要文化財 | 銅板地螺鈿花鳥文説相箱 | 平安時代 | ||
金貝蒔絵鳳凰唐草文鏡巣 | 鎌倉時代 | |||
重要文化財 | 蒔絵籬菊文机 | 室町時代 | ||
青貝蒔絵草花文洋櫃 | 桃山時代 | |||
重要文化財 | 沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒 | 伝本阿弥光悦作 | 江戸時代前期 | |
蒔絵枝垂桜柳文棗(嵯峨棗) | 江戸時代 | |||
彩漆絵波兎文盆 | 江戸時代 | |||
【特別出陳:酒井抱一下絵・原羊遊斎作蒔絵作品】 | ||||
竹製蒔絵椿柳文茶入 | 酒井抱一下絵・原羊遊斎作 | 江戸時代後期 | ||
枕形硯箱 | 酒井抱一下絵・原羊遊斎作 | 江戸時代後期 | 個人蔵 | |
草花蒔絵五つ組杯 | 酒井抱一下絵・原羊遊斎作 | 江戸時代後期 | 大阪市立美術館蔵 | |
紅葉蒔絵印籠 | 原羊遊斎作 | 江戸時代後期 | 大阪市立美術館蔵 | |
蒔絵菊桐文炉縁 | 原羊遊斎作 | 江戸時代後期 | 個人蔵 | |
など |
特別講演 | 7月29日(日) 14:00から講堂にて |
「蒔絵デザイン革命-酒井抱一と原羊遊斎の挑戦-」 | 三井記念美術館主任学芸員 小林祐子氏 |
日曜美術講座 | 8月12日(日) 14:00から講堂にて |
「琳派の漆工芸-古典学習と新発想-」 | 当館学芸部係長 宮崎もも |
文華苑講座 | 7月22日(日) 14:00から講堂にて |
「園芸植物の増殖」 | 奈良教育大学准教授 箕作和彦氏 |
列品解説 | 毎週土曜日14:00から展示場にて(当館学芸部による) |