地域と共生する「あべのハルカス」

2014年3月に開業した超高層ビル「あべのハルカス」はあべの・天王寺エリアのシンボルであり、大阪のランドマークとなっています。鉄道・百貨店・ホテル・オフィスなど近鉄グループの主要事業によるシナジー効果で新たな価値を創出し、あべの・天王寺エリアの魅力をさらに向上させる立体都市です。「あべのハルカス」の誕生で、あべの・天王寺は梅田、難波に続く大阪第三のターミナルであると同時に、独自の個性を持つ都市核へと生まれ変わりました。あべの・天王寺エリアのにぎわいの歴史と「あべのハルカス」の開発の狙いについてご紹介します。

田、難波に続く大阪第三のターミナル

大阪市阿倍野区に2014年3月7日に全面開業した「あべのハルカス」―― 建物全体がガラスで包まれ、縦ラインを強調し、シンプルかつ洗練されたデザインで、天空に向かってそびえる光景がとても印象的です。そして、その心に響く名称は平安時代に書かれた『伊勢物語』に登場する美しい古語「晴るかす」(心が晴れ晴れとするという意味)に由来しています。地上60階・地下5階・高さ300mで、日本初のスーパートール(300m以上の超高層ビル)を誇る「あべのハルカス」は、外観や展望台からの眺望、また建物内の様々な施設ともその名の通り、人々の心を晴れやかにするものとなっています。
あべの・天王寺ターミナルは、「あべのハルカス」と直結する近鉄南大阪線のほか、JR(大阪環状線・大和路線・阪和線)、地下鉄(御堂筋線・谷町線)、阪堺電車の4社7線が乗り入れ、乗降客数が梅田、難波に続く大阪第三のターミナルです。交通利便性が非常に高く、新大阪駅まで約20分、JRの特急電車やリムジンバスを利用して関西国際空港や大阪国際空港(伊丹空港)には約30分でダイレクトアクセスが可能であり、まさに国内外に向けて開かれた大阪都心部の南の玄関口といえます。
現在のあべの・天王寺エリアは大阪東南部、奈良、和歌山などを中心とする約600万人の商圏で、多くの商業施設があります。そのほか、オフィスビル、寺社や公園・動物園・博物館、学校などの教育機関が集積しており、梅田や難波とは異なる文化や個性を有しています。最も異なるのは、このエリアが明治期以降、住宅地として開発されたことから、「暮らす」要素が強いです。オフィスや商業施設が主となる地域とは異なり、この街には昼間も夜間も途絶えることなく、常に人の息づかいが感じられます。

べの・天王寺エリアのにぎわいの歴史

あべの・天王寺エリアのにぎわいは、古代より長い時間をかけて連綿と紡がれてきたものです。このエリアを含む上町台地はかつて大阪の大半が海であった時代にも陸地(半島)として存在し、大阪の中でも古くから人が暮らしていた地域でもあります。
エリア内には歴史的施設が点在します。日本最古の仏教寺院のひとつとされ、天王寺の地名の由来となった「四天王寺」は聖徳太子が593年に建立しました。また、仁徳天皇時代(393年-427年)に創建された「阿倍王子神社」は四天王寺と住吉大社の中間地点に位置し、その北には、安倍晴明誕生の地とされる「安倍晴明神社」があります。こうした歴史・文化資産は、古代や中世の時代に信仰を持つ人々がこの地に集い、人々の交流やにぎわいが生まれていたことを現代に伝えています。

代都市・大阪の発展に
寄与してきた大阪阿部野橋駅

現在の近鉄・大阪阿部野橋駅の歴史は、1923年4月、大阪鉄道「大阪天王寺駅」の開業から始まります。
大阪市の近代都市としての発展をみると、1889年に市制が施行し、1897年の第1次市域拡張で大阪駅と天王寺駅も市域に加えられます。さらに1925年の第2次市域拡張によって大阪の面積(181㎢)・人口(211万人)とも東京を超えて日本一となり、「大大阪」と呼ばれるようになりました。産業や文化が興隆し、御堂筋が完成(1937年)し、梅田~難波間を走行していた地下鉄1号線(現:御堂筋線)が天王寺まで延伸(1938年)するなど、近代的な都市に変貌していきます。
「大阪天王寺駅」(約1年後には「大阪阿部野橋駅」に改称)の開業は、こうした大阪の目覚ましい発展の一翼を担うものでした。1926年にはさまざまな形態の店舗を集めた「大鉄アーケード」が開業し、あべの地区は一層、にぎわいを増していきます。 1938年10月には、面積約16,000㎡の大鉄百貨店が全面開業しました。これが現在の「あべのハルカス」の原型となります。その後に戦時下の交通事業調整で、大阪鉄道は関西急行電鉄と合併し、さらに南海鉄道と合併して近畿日本鉄道が誕生します。それに伴い、大鉄百貨店は日本鉄道阿部野百貨店(現:あべのハルカス近鉄本店)となりましたが、空襲で罹災します。
戦後になって建物の復旧工事が行われ、1948年7月、近鉄百貨店阿倍野店と名称変更して営業を再開します。周辺でも新装開店する店が相次ぎ、街も次第に活況を呈してきました。
その後も、近鉄百貨店は飛躍的な成長を遂げ、増改築を重ねて規模を拡大していきました。しかし、建物躯体や設備が老朽化し、また梅田や難波の百貨店が増床するなど百貨店を取り巻く事業環境の変化に対応するため、2000年代に入って、ターミナルビル建替と百貨店事業の刷新についての検討を開始しました。

  • 開業当時の大鉄百貨店
  • 1960年代のあべの・天王寺エリア

ーパートールが実現

大阪では2000年代以降、梅田エリアで大規模な再開発が進められ、なにわのイメージが色濃い難波エリアには国内外からの観光客が増えていました。それぞれの形で進展する梅田や難波に比べて、あべの・天王寺エリアはターミナルの乗降は多いものの、歴史ある地域だけに現代的な都市機能が不足しているのではないかとの声もありました。あべの・天王寺エリアが抱える課題は、地域のポテンシャルをさらに発揮し、通過する街から目的地(滞在地)となる街へ転換することだったのです。あべの・天王寺エリアが梅田、難波と並ぶ「第三の都市核」として成長していくためには、シンボルとなる場所が必要であり、日本一の超高層複合ビル建設というダイナミックなプロジェクトが計画されたのです。
当初は、この地区における高層ビルの建設にはいくつもの法制度が立ちはだかっていましたが、それらが緩和されたことで、日本初のスーパートール建設の実現に向けて一歩ずつ進んでいきます。まず、2002年7月、大阪阿部野橋駅周辺21haが国の「都市再生緊急整備地域」に指定されたことによって、ターミナルビル建替については計画地の容積率が800%から1600%へと緩和されました。土地の高度利用が可能になったことで、ビル内には百貨店のほか、このエリア内で不足していた大規模オフィスと国際的なホテル、美術館や展望台などの多様な施設の導入が可能になり、都市機能の一層の充実を目指すことになりました。
さらに追い風となったのは、2007年の大阪国際空港の航空規制変更です。それまで大阪国際空港の周辺空域には、航空法に基づく建物の高さ規制がありました。あべの・天王寺エリアにおける建物の高さ制限は海抜290mで、海抜17mの上町台地にビルを建設するには実質的に273mが限界でした。しかし、このエリアが規制区域から除外されたことで制限のないビルの建設が可能になったのです。当初の目標は大阪の複合ビルでは最も高層だった大阪ワールドトレードセンタービル(256m)を超えることでしたが、これを機に日本一の高さ(300m)を目指すことになりました。

2007年8月、いよいよ「阿部野橋ターミナルビル整備計画」を発表しました。2009年3月には近鉄百貨店旧館の解体工事に着手し、2011年2月には地上部分の建設を開始、2013年6月には近鉄百貨店「あべのハルカス近鉄本店」タワー館が先行してオープンし、2014年3月、ついに「あべのハルカス」がグランドオープンとなりました。
グランドオープンの日には、3,000mのテープで「あべのハルカス」と地域を結び、日本一長いテープカットセレモニーが行われました。

  • ハルカス300(展望台)
  • 時計の広場(地下1階)

リボンで装飾された「あべのハルカス」

隣の施設や商店街と協調して
回遊性を高める

「あべのハルカス」は延床面積が約31万㎡で、鉄道のターミナルと直結し、百貨店・ホテル・オフィスなど近鉄グループの主要事業を集積された立体都市です。
中核施設でもある「近鉄百貨店 あべのハルカス近鉄本店」は約10万㎡という国内の百貨店最大の営業面積を誇り、物販だけではなく、コミュニティや生活文化の創出にも寄与します。そのほか国宝・重要文化財を展示できる本格的な施設設備の「あべのハルカス美術館」、中層部はオフィス、高層部は「大阪マリオット都ホテル」、最上部は展望台「ハルカス300」を配置しています。
「あべのハルカス」内の各施設がお互いに連携し、統合的なサービスを提供する拠点を目指しました。

また、「あべのハルカス」の近隣には、大阪を代表する都市公園「天王寺公園」があり、総面積約28万㎡の園内には天王寺動物園、大阪市立美術館、慶沢園などが配置されています。エントランスエリアに2015年に開業した「てんしば」は、大阪市との協定により近鉄不動産が管理・運営を行っているもので、レストラン、遊具場、フットサルコートなどのほか、約7,000㎡の芝生広場では様々なイベントを開催しています。さらに2019年には新エリア「てんしば i:na(イーナ)」が開業しました。「あべのハルカス」とともに、近鉄グループは周辺のグループ施設や他の施設と連携して街の回遊性を高め、あべの・天王寺エリア全体のにぎわい創出に尽力しています。

  • 天王寺公園エントランスエリア「てんしば」
  • てんしばi:na

あべの・天王寺エリアマップ

史・文化をはぐくみながら
未来につなぐ

「あべのハルカス」は大阪のランドマークとして定着し、その存在によってあべの・天王寺エリアが国内外に周知されました。開業以来、多くの人々が多様な目的で訪れますが、特に人気があるのが、最上階60階の展望台「ハルカス300」です。ここでは、展望台までの1637段の“大人の階段”を歩いて上る「ハルカスウォーク 地上300mの成人式」やクリスマスシーズンにはサンタクロースやトナカイ姿で窓拭きを行うなど、にぎわいイベントが多く実施されています。
360度見晴らせるこの展望台からは大阪平野だけでなく、気候条件がよければ、明石海峡大橋や淡路島までも望むことができます。最も人気があるのは大阪湾に沈む夕日で、夕焼けを見るために西側に人垣ができることもあります。夕日を見る行為は平安時代までたどることができ、かつて弘法大師空海が「四天王寺」から西に沈む夕日を見て、西方の極楽浄土を観想する「日想観」を行い、法然上人も「日想観」をこの地で修したと言われています。
古き時代から人の営為を育んできたあべの・天王寺エリアに立つ「あべのハルカス」はこの街を未来につないでいきます。

58F天空庭園からみた夕日

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