ブックタイトル社寺の風景
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社寺の風景
初めて訪れる海外の都市や、国内の観光地を旅する時、多くの人がガイドブックを手にするだろう。その土地の名所旧跡、お土産、地元の人に愛されるお店などが写真とともに掲載される。江戸時代後期以降盛んに出版された「名所図会」も同じ役割を負ったもので、多くの人々に親しまれた。名所や旧跡、景勝地の案内だけでなく、名産品や行事についてもわかりやすく解説されている。そこには、取り上げられた場所を大きく俯瞰した視点で捉えた挿図が添えられ、ぱらぱらとページをめくるだけで当時の旅情を味わうことが出来る。景観描写は、人々の想像力を刺激し、その場へ行きたいという想いを駆り立てる。実景をどのように絵画化するか、そこには当時の人々が持ったその場所へのイメージが色濃く反映している。本展覧会は、様々な景観を捉えた絵画の中で、社寺の風景に注目したものである。信仰の裾野が広がるとともに、描かれる風景や表現も多様に変化した。神域を厳かに描く「宮曼荼羅」の風景、賑わう霊場を捉えた「参詣曼荼羅」の風景、祭りの活気に焦点を当てた「祭礼図」の風景、何れの作例も画中へと観る者を誘う画面空間が広がっている。本稿では画面に表現された人物を手がかりに、聖と俗のあわいに広がる「社寺の風景」の展開について考えてみたい。「宮曼荼羅」の風景神社の社頭景観を描く「宮曼荼羅」は、その場に鎮座する神々を視覚化したものであり、礼拝対象として数多くの作例が描かれた。中でも春日大社、日吉山王社、石清水八幡宮社を描いた宮曼荼羅は現存作例も多く、厚い信仰を集めていたことが窺える。宮曼荼羅が文献に現れるのは平安時代末頃とされる。とりわけ春日明神への信仰に基づいて描かれた春日宮曼荼羅は、「奉書始三笠山并南円堂形像」(『維摩会并東寺灌頂記』)、「図絵春日御社」(『玉葉』)などと文献史料に散見されるが、現存作例は鎌倉時代以降のものである。鎌倉時代後半にかけて図様の定型化が進んでいったと考えられ、その基準作の一つが湯木美術館に所蔵される作例である。銘文から、正安二年(一三〇〇)に南都絵所芝座の絵師、観舜によって描かれたことが分かる。春日宮曼荼羅を考察する際、湯木本との距離がどの程度であるのか、という点が判断基準の一つとなっている。展覧会へは奈良国立博物館(作品番号1)、石山寺(作品番号2)、徳川美術館(作品番号3)所蔵の作例が出陳される。奈良博本と石山寺本は何れも、画面構図や表現技法が湯木本と近い。南都絵師に共有された図像の規範性の強さが窺えるが、本地仏を表すか否か、表した際には坐像あるいは立像で表現するのかという違いが認められ、社頭景観を基礎としつつも、細部には発願者の信仰や思想が反映されたことが窺える。一方、徳川本は画面上部に春日社の神域を、下部に興福寺南円堂の本尊である不空羂索観音像を描く。画面下部に興福寺社寺の風景―宮曼荼羅から祭礼図へ―古川攝一4