対談「AIで変わる未来」

 近年、コンピューター囲碁や車の自動運転などで「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」が大変注目されています。社会の様々な場面でAIの活用が進み、遠い未来には、人間と同じような感情を持つロボットが登場するかもしれません。私たちの未来は大きく変わろうとしており、急激に進化するAIについて私たちは積極的に学び取り入れていく必要があります。そこで「ロボカップ」の創設者のひとりであり、認知発達ロボティクスの第一人者である大阪大学の浅田稔教授に「AIで変わる未来社会」をテーマにお話を伺いました。

AI(人工知能)とは

吉田近鉄グループホールディングスの吉田です。本日はよろしくお願いいたします。近年、AIが大きな注目を集めています。AIとは、人間の機能や作業、仕事を代替するようなシステムをイメージしていますが、当社グループの発展と競争力強化のために、是非ともAIを学び活用したいと思っています。まず先生の研究内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

浅田私は人間の幼児期における認知機能の発達に関心がありましたので、学生の頃コンピューターによるパターン認識(注:画像や音声を含むデータの中から、一定の規則や意味を持つ対象を選別すること)の研究をしていました。しかし、例えば「りんご」の「赤い」、「丸い」といった特徴を認識できても、「かじったら歯ぐきから血が出る」というような体験に基づく知識は「身体」を持たないと学習できないのではないかと考え、「身体」によって知能を発現するロボットの研究を始めました。

「レオナルド・ダ・ヴィンチ」アンドロイドを挟んで「レオナルド・ダ・ヴィンチ」アンドロイドを挟んで

吉田先ほど見せていただいた「レオナルド・ダ・ヴィンチ」アンドロイドは、眼や口が動いて話をしたり、外見は本物のように精巧でしたが、AIを併せ持っているのでしょうか。

浅田まだ持っていません。動きはコンピューターで制御しています。「レオナルド・ダ・ヴィンチ」アンドロイドは科学、技術、芸術の統合の象徴として、若い世代に最先端のロボット技術をわかりやすく伝えるために製作したものですが、表面上似せているだけで、知能も含めて本物の人間に近づけるのはまだまだ難しいです。

吉田人工知能という言葉は昔からあったように思いますが、今はどのような段階なのでしょうか。

浅田AIの研究は1950年代から始まり、パターンの組み合わせを推論・探索する古典的なものは、将棋などのゲームのプログラムに利用されています。その後、コンピューターの処理能力が向上したことにより、ビッグデータを取り扱う精度が上がった機械学習は、Googleなどの検索エンジンに利用されています。

吉田私たちが無意識に利用している検索エンジンもAIなのですね。

浅田そうです。その他に、AIを利用した様々なアプリを体験できるスマートフォンの普及で、AIはとても身近になりました。そしてディープラーニング(深層学習)という技術が開発されたことで、飛躍的に研究が進んでいます。ディープラーニングとは、コンピューター上に人間の神経細胞を模した仕組み(ニューラルネットワーク)を作り、複数の階層を経て処理や判断を行う技術で、階層を厚くすることにより複雑な判断を可能にします。

ニューラルネットワークが画像判断を行うイメージ図ニューラルネットワークが画像判断を行うイメージ図

・YouTubeから取ってきた大量の画像をニューラルネットワークに学習させることで、下位の層のニューロンには線や点といった単純な特徴量が、上位の層には、人の顔や猫といったより複雑な特徴量が学習されます。

・人間の視神経のモデルとして知られているネオコグニトロンと極めて近いものです。

Quoc V.Le et al.,Building High-Level Features Using Large Scale Unsupervised Learning ICMI2012,2012 ~
「Googleの猫(2012)」:松尾豊東京大学特任准教授の講演スライド(http://logmi.jp/155365)の図を加筆修正

吉田具体的には、どのようなものでしょうか。

浅田例えば、従来の画像認識の技術では、写真を見て猫と犬の区別をする場合、耳や目や顔の形、色や毛並みなど、コンピューターにあらかじめ人間が様々な特徴を教え込む必要があり、精度も完ぺきではありませんでした。例えば「犬の耳は三角形で立っている」と特徴を教え込んでいると、「耳の長い犬」を見た場合は、犬と認識できないことがありました。しかし、ディープラーニングでは、どこに注目すれば特徴を掴めるか、コンピューターが大量の画像から相関関係を把握し、自分で発見することができるようになりました。人間が認識していない特徴も認識しており、人間以上の「眼」を持っているのです。

ディープラーニングについて語る浅田教授ディープラーニングについて語る浅田教授

浅田しかし、ディープラーニングは、相関関係を見い出すことはできますが、なぜそうなるかという理由や意味まで理解している訳ではありません。理解とは、自分の身体を通じて経験することで得られるものです。言葉を覚え始める頃の子供と似ていることから、私の研究室では新生児の発達過程も研究し、新生児ロボットの開発も行っています。

吉田そのロボット研究の延長として、ロボカップを立ち上げられたのですね。

浅田自律移動するロボット同士がサッカー等の競技で対戦する「ロボカップ」は、20年前に始まりました。当初は参加者も少なく、満足に動かないロボットもありました。今では世界約400チームが参加し、その半数が19歳以下のジュニアチームです。

吉田ロボカップサッカーでは、どの国が強いのでしょうか。

浅田ドイツですね。他にはイランやシンガポールも強いです。日本も健闘しています。

吉田ロボカップが目指すものは何でしょうか。

浅田ロボカップのミッションは、科学技術やものづくりに関心を持ち、国際感覚を身につけた子供たちを育成すること、そしてロボットの平和利用を世界に発信することです。この大会が次世代の技術の担い手を育ててくれることを期待しています。

RoboCup Federation ロボカップサッカーの様子
RoboCup Federation ロボカップサッカーの様子ロボカップサッカーの様子

AIによる労働環境の変化

吉田ところで、AIが進んでいけば、どのような職業がAIに代替されるのでしょうか。

浅田専門家のスキルをコンピューターで言語化できれば、可能です。判例のデータベースを学習すれば弁護士に替わることが可能ですし、医療でも専門医並みの知識が蓄積されればとって替わるでしょう。膨大なデータの中から規則性を見つけ出し、予測をしたり解を出すような仕事は、AIに向いています。一方で手術や介護など生身の人間を相手に細かい動作が要求されるものは、モーター制御やセンサー等がまだまだ安定していないため、現状では難しいでしょう。仕事の過程を表面的に覚えるのではなく、その基にある本質、たとえば経験に裏打ちされたコツや技法などをいかに見つけるか、これが専門家のスキルであって、今のAIではできないことです。

吉田複雑な動きが必要なものは難しいということですね。データや知識が蓄積されているものはAIで代替できるということですが、AIが普及すれば労働時間はどうなるのでしょうか。

浅田AIで置き換えることで、もっと減ると思いますし、また減らすべきでしょうね。日本人は働きすぎです(笑)

吉田AIが人間を代替すると、経験する機会が減り、人間の能力が衰えてしまうのではないでしょうか。

浅田現代は調べものもネットで済んでしまうので、自分で考えたり思い出そうとする能力は落ちるかもしれません。ただ検索が早く済めば、時間を他のことに使えるので、AIを自分の能力を高める手段と思えば使い方次第と言えますね。

吉田おっしゃるとおりです。余った時間でもっと自己研さんを積んで、能力を高める努力をすべきです。

AIと倫理

吉田先程お話のあった表面的なことだけでなく、その基にある本質とは、人間に置き換えると心の奥に持っている信念や倫理観になると思いますが、AIがこれらを取り扱うのは難しいでしょうか。

浅田AIが倫理を学習するには、身体で痛みを経験させ、痛みや死の意味を概念でとらえることが必要です。今は設計者がプログラムによって「よい」「わるい」を定義しているにすぎません。なぜだめなのかといった疑問をAIは持たないのです。ですから価値観や倫理観の異なる環境で学習させると、悪いことをするロボットが生まれる可能性もあると思います。

吉田人間は逆境の中でこそ大きく成長すると思います。人の痛みが分かる倫理観のある人間になるには、こうした厳しい環境が必要だと思います。ロボットが倫理観を持つのは難しいと思いますが、いかがでしょうか。

浅田教授浅田教授
話に熱が入ります話に熱が入ります

浅田ロボカップでは「2050年にサッカーのFIFAワールドカップチャンピオンに勝つ」ことを目標にしていますが、対戦をするためには相手を傷つけないことが必要です。プレー中にロボットと人間がぶつかった時に、人間が傷つくのと同程度にロボットも壊れるようにするなどの課題をクリアする必要があります。このように度を越すと自分(ロボット)も壊れる(傷つく・痛い)という概念を自ら得てほしいと思います。その上で厳しい環境だけでなく、褒美を与えるような環境も整えて成長を促すと、ロボットも「体の痛み」や「心の痛み」を感じるようになるかもしれません。

人間とロボットの共生

吉田いずれロボットは人間を完全に再現できるのでしょうか。

浅田現時点では、できません。再現する対象が、行動なのか、生命体なのか、細胞なのか、器官なのか、そもそも再現することが可能なのか、分かっていないことが山のようにあります。計算モデルをたてて、実際の新生児と比較しますが、宇宙や生物の謎がいつまでも全て解明されないように、新生児の謎も、ひとつ解明すれば別の謎が生まれ、永遠に終わりません。

吉田人間は長い時間をかけて成長し、寿命によって無になりますが、ロボットは短時間で複製もでき、寿命もありません。仮に人間と同じロボットができてしまうと、「人間とは何か」と考えてしまいます。

浅田今のアンドロイドは精巧なのは表面だけで、中身まで本物の人間に近づけるのは難しいです。しかし、人間との違いを受け入れ、認めることが、人間とロボットが共生できる社会を創るということだと思います。ドイツのあるメディアに「AIは道具なのか、人間がAIの道具なのか」と聞かれたことがあります。「どちらでもない、共生とはお互いに認め合った上で上手に付き合っていくことだ」と答えましたが、理解してもらえませんでした。「のび太とドラえもんのような関係で、命令はしないがアドバイスはする」と言ったら納得していました。

吉田ロボットは単なる人間の道具ではなく、共存するものということですね。

浅田そのとおりです。それぞれ得手不得手がありお互いに補完しあっていく、教え合っていくような関係性を共生とみています。

AIについて分かりやすくお話をしていただきました。AIについて分かりやすくお話をしていただきました。

チャレンジ精神が企業の成長につながる

吉田企業が大きくなると、安定を求めて入社する人が多くなり、ベンチャー精神を持った人は少なくなります。当社においても同様で、このような安定志向の企業風土は、成長変革の上では問題でもあります。グループ会社でも安定志向の風土の会社が多いです。

浅田今の大学では、学問の領域や常識、国を超えた研究が必要となっており、私もそのための人材育成に危機感を持っています。若い人達には単にモノを教えるのではなく、どういう時に何ができるかを考えさせることが重要だと思います。私の研究室から企業に行く学生の中には、企業の方が楽だと言う学生もいます。私は厳しくしているつもりはないのですが、彼らにとっては厳しいのかもしれません。

吉田研究者としての心がけをお教えください。

浅田生業のために研究をする「研究屋」になってはいけないと戒めています。研究者は生業の枠を越えて自分を追い込み、チャレンジを続けていくものです。また研究者は、柔軟な発想を持つことも大切です。ある研究者は、「倉庫の棚は動かない」という固定概念を崩して、倉庫の棚自体を動かす棚の自動走行システムを作りました。ネット通販企業のアマゾンがこの技術を買い、物流センターの発送業務に使って効率化を図っています。自分が動かないと思っている間は動かないし、どう常識を変えるか。カーネギーメロン大学の金出武雄先生が「素人発想、玄人実行」を提唱されており、素人のように常識を疑ってかかり、柔軟に発想し、プロとして緻密に実行することを勧めています。「自分の常識は相手の非常識、相手の常識は自分の非常識」も同じで、自分の専門分野を超えようとせず、自分の発想から動かないようではいけません。

吉田企業においても毎日同じことをしていれば楽ですが、衰退していくばかりです。チャレンジ精神、変革の精神、そしてそれをどう実行していくかが必要だと思います。当社でもAIに触れて、AIはどんな存在なのか、どう使うべきかを考え、事業変革にチャレンジしていきたいと思います。

浅田ロボカップもチャレンジの連続でした。

吉田その結果、新しい成果が生まれました。このような成果を産み出した浅田先生の精神力や胆力の源は、どこにあるのでしょうか。

浅田ロボカップは、まず「やってみよう」というチャレンジから始まりましたが、やってみるとしんどかったですね。全然動かなかったり、転んだりする。でも、やってみるとだんだん面白くなってきました。「おもろい(面白い)」が一番のトリガーで、それがさらに研究の原動力となりました。自分が「楽しい」と思えると苦しみも乗り越えられます。「苦手だから」というのは甘えです。とにかく「おもろい」「人と違うこと」をやりたいと思っています。

吉田非常に大切なことですね。

大阪大学構内にて大阪大学構内にて

近鉄グループに期待すること

吉田社会貢献の面で当社に期待すること、アドバイスがあればお聞かせください。

浅田近鉄グループの事業分野の中で、今まで取り組んでいなかったことを足していくのが良いと思います。例えば、社員のボランティア活動があったとすると、そこからアクティブに一歩踏み込んだ取組みをすることで、潜在的なマーケットを見い出したり、新しい展開を考えつくこともできるのではないでしょうか。それ自体が社員トレーニングにもなるし、そういうアイデアを考えることが大事かと思います。

吉田社会貢献を通じて、沿線のお客様の反応やヒントを感じ、そこから新しい挑戦を考えていくということですね。
本日はAIの基礎知識を学ぶとともに、AIの可能性について最先端のお立場から貴重なお話を伺いました。さらに、ロボット開発にまつわるお話の中で、常識にとらわれず変革にチャレンジしていく大切さを教えていただきました。「素人発想、玄人実行」の取組み方についても、大変参考になりました。急速に身近になりつつあるAIをもっと勉強して触れてみることで、お客様のニーズに応える新しい事業を生み出していけるようチャレンジしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

浅田 稔(あさだ みのる)

浅田 稔(あさだ みのる)大阪大学教授、大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻。滋賀県出身。1982年大阪大学大学院基礎工学研究科後期課程修了、1989年工学部助教授、1995年同教授、1997年工学研究科知能・機能創成工学専攻教授。工学博士(大阪大学)。1986年から1年間米国メリーランド大学客員研究員。 ロボカップ創設者の1人であり、認知発達ロボティクスの第一人者。NPOダ・ヴィンチミュージアムネットワーク理事長、日本赤ちゃん学会、日本子ども学会理事、日本ロボット学会副会長(2017~)、米国電気電子学会(IEEE)フェロー(2005~)。

TOPに戻る